ポール・ボキューズ、食のテーマパーク
リヨン市内の気持ちよい散策を終え、夕方いったんホテルに戻って一張羅に着替える。
リヨンの名物三つ星レストラン、ポール・ボキューズに予約を入れてあるのだ。
わざわざ日本から一張羅を持ってきたのもこのためだ。
タクシーでホテルを出発する。車は市街を抜けどんどんと市外へ・・・・
夕暮れ時を過ぎて日が暮れて周りは更に薄暗く、建物が無くなり周りは林と畑になりますます寂しくなり・・・
どこに連れて行かれるんだ?
このタクシーで大丈夫か?
と、不安が最高潮になったころ、林の中に忽然とお菓子の家、
もとい、ポールおじさんの館が唐突に出現した。

・・・なんというか、かなりシュールなデザインである。
中にはいると調度品や内装はさすがに三つ星レストランの豪華さだ。
Webサイトからおっかなびっくり予約をしたのだが、どうやら無事席は取られていたようだ。
やれやれ。正直言ってほっとした。ここまで来て、「えーと、あんた誰?」なんて事になったら悪夢だからね。
さて、メニューを見て一番シンプルなコースを注文し、食前酒にシャンパンを選ぶ。
ほっと一息ついて二人で乾杯をする。

落ち着いて周囲の席を見回すと、実は誰も大して正装なんかしていない。どちらかというとラフな格好の客ばかりだ。ネクタイをしているのは自分と、サービススタッフだけ? うーん、わざわざ日本から運んできたんだけどな。なんてぼやいているところへ前菜が届く。自分には冷菜の盛り合わせ、奥さんにはロブスターのスープ。
えーと、これ何人前ですか??
・厚切りトースト一枚分ほどのフォアグラのテリーヌ
・同じくらいの大きさの厚切りハム
・野菜のゼリー寄せ
一つ一つがそれぞれ3人分くらいに見える。
奥さんのスープは大きなポットに入っているので、ここから取り分けるのかと思ったら、これがまるまる一人前だ。
この量はいったい何なんだ?
気を取り直してこれらを平らげる。もちろんどれも味は文句なし。
思わず気合いを入れてフォアグラを平らげてしまった。大体フォアグラなんてお腹いっぱいたべるものなんだろうか??
どうやらウワサは本当だったらしい。
「伝統的フレンチ」 = 「圧倒的物量で迫り来るこってり田舎風フレンチ」
しかもこれで前菜、このあといったい何が出てくるのか。
そうだ、いったい自分は主菜に何を頼んだのだ?
ヒ・ツ・ジ... 思わず羊まるごと一頭の丸焼きなどを想像したら、お腹にずっしりと溜まったフォアグラにより目の前がクラクラとなり、イヤな感じの冷や汗が背中を流れ出した。
どうやらホントに顔色が蒼くなっていたらしい。奥さんも心配そうに見ている。
しばらく背もたれにもたれてぐったりしているとようやく体調も落ち着いてきた。
そのとき何人かのスタッフを引き連れ、伝説のシェフ、ポール・ボキューズ氏が部屋の奥から姿を現した。
齢80を超えてなおかくしゃくとしており、にこやかにテーブルを回って挨拶し、一言二言客と話しをしながらやってくる。
そしてついに自分たちのテーブルの前におフランスの人間国宝、ポール・ボキューズ氏がやってきた。
日本から来たことを告げると、とても気さくに話しかけてくれ、サインのお願いにもイヤな顔一つせず応じてくれる。
なんというか、サービス精神の塊のような人だ。ひらまつグループと提携して日本にも進出しているためか。
こちらのカメラを見かけると、向こうから「さぁ写真を撮ろう」と自ら手招き。

ポーズを替えながらスタッフに何枚も写真を撮らせる。とんでもなくエライ人なのにとても気さくでいい人である。しばらくお話をさせていただいた後、「ゆっくり楽しんで下さい」と挨拶をしてボキューズ氏は店の奥に去っていった。
だんだんわかってきた。
ここはフランス料理のテーマパークなんだ。
ミッキーと記念撮影をするように、伝説のシェフと親しく会話ができ、記念撮影をする。
だから郊外の森の中にああいう突拍子のない建物が忽然と現れるわけだ。
二人でそんなことを話して、すこしリラックスしていると恭しくワゴンを押してスタッフが主菜を運んできた。
スタッフが銀色のフタをさっと開けるとラムラックの塊、肋4本分の巨大な肉塊が現れた。数人のスタッフがこれを切り分け、脇から同時に温野菜が添えられ、温められたトリュフ入りソースがさっとかけられる。
こうして目の前で魔法のように料理が完成する。

目の前に出された皿の上には一つ一つの骨付きラムの一本一本が・・・デカイ。
こいつを切り分けて一口頬張ると・・・ウマイ!
しかし食べても食べても減らない!
すでに巨大フォアグラテリーヌでお腹が一杯だったのだ。やむを得ず2本目を食べたところでリタイアした。
とっつぁん、俺ぁもう疲れたよ、もう真っ白に燃え尽きたよ。
と背もたれにぐったり寄りかかりながら隣のテーブルを見ると、がっちりした体格のおとなりのアフリカ系カップルも3本目の骨付きラムの食べかけでリタイアするところだった。
なんだ、日本人だけが残す訳じゃないんだ、と妙な安心の仕方で、それでもなんだかほっとしていた。
ところがまだ安心するのは早かった。
奥から巨大な木箱を捧げ持ったスタッフが数人。
今度は30種類を越えるチーズの大軍の襲来。いえいえもう入りません。

もうカンベンして下さいシクシク・・・と思ってたら、ワインとチーズ大好きな妻が俄然はりきりだした。
「アレとコレとソレと・・それとアレも」・・妻よお前の胃袋はいったい・・・
とゆーか負けていられないので、決死の覚悟で立ち上がり、いくつかのチーズ、それも比較的臭くなさそうなものを頼んでみた。

チーズの大軍をようやくやり過ごしていると、しんがりにはデザートを満載したワゴンが4,5台進軍してきて、こともあろうにこちらのテーブルを隙間無くグルーリと取り囲んだ。このデザート包囲網により我々の退路は完全に断たれた。



そのまま10分も放置プレーにあい、包囲から解放してくれたサービスマンが「デザートは何を?」などとのたまったが、もちろん丁重にお断りした。勘定を済ませ、タクシーを呼んでもらい食のテーマパークを後にする。
ホテルに帰り着いて二人ぐったりと疲れ果てて眠りについた。
「伝統的フレンチ」と対峙する際の教訓:
・残すことは普通、3割食べて次に行こう。特に序盤はセーブせよ。
・体調は万全に。当日はディナーなら昼は抜くかコーヒー程度にするとよい。
・食事ではなく美食のテーマパークを体験すると心得よ。

































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